梅の季節になると、スーパーの店先にホワイトリカーの瓶がずらりと並びます。隣には氷砂糖と梅。毎年恒例の光景ですが、このとき「これは法律的に大丈夫なのか」と考えたことがある人は少ないかもしれません。実は、自家製の梅酒や果実酒には酒税法という法律が関わっています。知らずに作っても困ることは少ないのですが、知っておくと迷ったときに判断できます。
なぜ家で酒を作ることに制限があるのか
結論から言うと、日本ではアルコール度数1度以上の飲料を作る行為は、原則として酒税法の規制対象になります。自由に誰でも酒を製造できるわけではありません。
理由は単純で、酒には税金がかかっているからです。酒税は国の税収の中でも歴史が長く、製造・販売の両方に免許制度が敷かれています。誰でも自由に酒を作れてしまうと、税金を払わずに流通する酒が増え、公平性が崩れてしまいます。そのため、酒の製造には原則として免許が必要で、免許のない個人が勝手に酒を造ることは禁止されています。
ここで疑問に思う人が多いのが、梅酒です。毎年当たり前のように家庭で作られているのに、なぜ違法にならないのか。これは、酒税法の中に家庭での混成酒づくりを例外として認める規定があるためです。すでに酒税が課された酒(たとえば焼酎)に、梅や砂糖などを混ぜて作る分には、新たに酒を製造したとはみなされない、という考え方です。
たとえば、スーパーで購入したホワイトリカーに、庭でとれた梅と氷砂糖を漬け込む。これは多くの家庭で行われている典型的な場面ですが、ベースの酒にすでに税金がかかっているからこそ、例外として認められています。
ここは誤解しやすいところですが、「果実酒だから何でも作っていい」わけではありません。あくまで、課税済みの酒を土台にして風味を加える行為が対象です。何もないところから酒を醸造する行為とは、法律上まったく別物として扱われます。
法律上OKとされる条件
自家製の果実酒作りが認められるのは、いくつかの条件を満たしたときに限られます。条件から外れると、知らないうちに規制の対象になってしまうことがあります。
まず大前提として、ベースとなる酒のアルコール度数がおおむね20度以上であることが目安とされています。度数の低い酒をベースにすると、発酵が進んでアルコール度数が変化し、新たな酒を製造したとみなされる可能性が出てくるためです。ホワイトリカーがよく使われるのは、度数が高く安定していて、この条件を満たしやすいからです。
次に、使ってはいけない材料があります。米、麦、ぶどうなど、発酵してアルコールを生成しやすい原料は、混ぜること自体が規制されています。特にぶどうは要注意です。家庭でワインのようなものを作ろうとして、生のぶどうを漬け込む行為は、原則として認められていません。果実酒として一般的にイメージされるものでも、原料によって扱いがまったく変わってくるのです。
具体的な場面で考えてみます。ある家庭で、庭に実った梅を使って梅酒を仕込んだとします。ホワイトリカー1.8リットルに、梅1キロ、氷砂糖500グラムほどを漬け込む。この組み合わせであれば、一般的に家庭での仕込みとして問題にならないとされています。一方、同じ感覚で自家製のぶどうを使い、同じように漬け込んでしまうと、条件から外れてしまう可能性があります。
迷いやすいのは、梅以外の果実を使う場合です。りんご、レモン、カリンなどは比較的よく使われますが、原料の性質によって発酵のしやすさが違います。心配な場合は、よく知られた定番の組み合わせにとどめておくのが無難です。制度は時期によって見直されることがあるため、気になる場合はそのときどきの公的な情報を確認する姿勢も大切です。
準備するもの、材料と度数の見極め方
梅酒や果実酒を仕込む前に、何をそろえればいいのか。結論としては、容器、ベースの酒、果実、糖分の4つが基本になります。それぞれの選び方に、制度上の注意点が絡んできます。
容器は、広口で密閉できるガラス瓶が定番です。梅酒用として売られている瓶には、4リットル前後の容量のものが多く、家庭で作る量としては扱いやすいサイズです。瓶はあらかじめ煮沸消毒するか、アルコールで拭き上げておきます。雑菌が残っていると、せっかく条件を満たした仕込みでも、風味が落ちたりカビが生えたりする原因になります。
ベースの酒を選ぶときは、ラベルの度数表示を必ず確認します。先ほど触れたとおり、おおむね20度以上であることが目安です。ホワイトリカーのほか、焼酎やブランデー、ウイスキーを使う人もいますが、度数が低いものを選んでしまうと、仕込んでいる間に発酵が進んでしまうことがあります。特に、安価な甲類焼酎の中には度数が低めのものもあるため、購入時にパッケージの表示を見落とさないようにします。
果実は、傷のない新鮮なものを選びます。梅であれば青梅が一般的で、収穫してから時間が経つと傷みが出やすくなるため、仕込みはできるだけ早めに行います。たとえば、朝に青梅を購入したら、その日のうちにヘタを取り、水気をしっかり拭き取ってから漬け込む。この一手間が、仕上がりの濁りやカビの発生を左右します。
糖分には氷砂糖がよく使われますが、グラニュー糖やはちみつで代用する人もいます。溶けるスピードが違うため、氷砂糖以外を使う場合は、仕上がりまでの期間が変わることを念頭に置いておきます。ここは好みが分かれるところで、どれが正解ということはありません。甘さの調整は、あとから別の容器に取り分けて加減する方法もあります。
実際の手順、仕込みから保存まで
手順そのものは難しくありません。結論を言うと、消毒した容器に材料を入れて漬け込み、冷暗所で保存するだけです。ただし、順番と注意点を押さえておくと失敗が減ります。
まず瓶を煮沸消毒するか、食品用アルコールで内側をまんべんなく拭きます。完全に乾かしてから使うのが基本です。水分が残っていると、そこからカビが発生しやすくなります。
次に果実の下処理をします。梅であれば、竹串などでヘタを丁寧に取り除きます。ヘタを残したまま漬け込むと、えぐみが出たり雑味の原因になったりすることがあります。水洗いをしたあとは、清潔な布やキッチンペーパーで水気をしっかり拭き取ります。この水気が残っていると、仕込み後に濁りが出やすくなります。
消毒した瓶に、果実と氷砂糖を交互に入れていきます。たとえば、梅1キロ・氷砂糖500グラムの場合、梅の層と砂糖の層を2〜3回に分けて重ねると、溶け方が均一になりやすいです。最後にホワイトリカーを瓶の上まで注ぎ入れ、ふたをしっかり閉めます。
仕込んだあとは、直射日光の当たらない冷暗所に置きます。最初の1週間ほどは、糖分を均一に溶かすために、1日1回程度、瓶を軽く揺すって中身を混ぜるとよいとされています。その後は数か月そのまま置いておき、果実を取り出すタイミングは好みによって変わります。梅であれば、半年から1年ほど置いて飲む人が多いようですが、これは好みの範囲で、決まった正解があるわけではありません。
つまずきやすいところ、人にあげる・売るときの境界線
ここまでの内容を押さえていても、実際につまずきやすいのは「できあがった酒をどうするか」という場面です。結論として、家庭で飲む分には問題がなくても、他人に渡す行為には注意が必要です。
まず、家族で飲む分には、先に説明した条件を満たしていれば問題になりません。これは酒税法が、個人が自分や同居の家族のために消費する範囲での例外を想定しているためです。
一方で、友人や知人にあげる行為については、考え方が分かれるところです。少量を手土産として渡す程度であれば実務上問題になるケースは少ないとされていますが、継続的に配る、量が多い、といった状況になると話が変わってきます。ここは法律の条文だけでは線引きが難しく、実際の運用に委ねられている部分も大きいところです。迷う場合は、あくまで自家消費の範囲にとどめておくのが安全な考え方だと思います。
そして、最もはっきりしているのが「販売」です。自家製の梅酒や果実酒を売る行為は、免許の有無にかかわらず明確に規制の対象になります。フリーマーケットやネット上のやり取りであっても例外ではありません。たとえば、知人から「とてもおいしかったから分けてほしい、お金を払うので」と言われたとしても、対価を受け取って渡す時点で、単なるお裾分けとは扱いが変わってきます。
もうひとつ見落としがちなのが、漬け込んだ後の果実の扱いです。梅酒から取り出した梅の実自体にも、ベースの酒のアルコール分が染み込んでいます。これをジャムや菓子に加工して販売する場合、原料にアルコールが含まれることになるため、思わぬところで規制に触れる可能性があります。自分で食べる分には気にする必要はありませんが、加工して誰かに渡す、ましてや売るとなると、事前に確認しておいたほうがよい部分です。
制度は時代とともに見直されることがあります。今はこうした整理になっていても、将来的に運用が変わる可能性はゼロではありません。毎年同じように仕込んでいる人でも、気になったときに一度最新の情報を確認してみる習慣があると安心です。

