かつお節ができるまでの道のり|水揚げから削り節になるまでの仕組み

Close-up of a hand using a traditional saw to cut wood precisely. Perfect for woodworking themes. Uncategorized
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スーパーの鰹節コーナーに並ぶ、あの薄く削られた淡いピンク色の削り節。あれ、もとは人の腕ほどもある魚だったって知っていましたか。鰹が水揚げされてから、あの薄さになるまでには、かなり手間のかかる道のりがあります。しかも途中でカビをわざと生やす工程まであるんです。ここでは、鰹節が生まれるまでの流れを、時間を追って見ていきます。

水揚げされた鰹が「なまり節」になるまで

鰹節づくりの最初の関門は、魚をいかに早く加熱するかです。鰹は足が早い魚で、水揚げ後の処理が遅れるとすぐに傷みが進みます。だから港に着いた鰹は、その日のうちに頭と内臓を落とし、三枚あるいは四枚におろして、大きな釜で茹でられます。

この茹でる工程には二つの意味があります。ひとつは殺菌と鮮度保持。もうひとつは、身を締めて骨を抜きやすくすることです。茹で上がった身からは、金属製のピンセットのような道具で小骨が一本一本丁寧に抜かれます。この時点のものを「なまり節」と呼びます。ツナ缶の原料や、惣菜のなまり節煮として売られているのもこの状態のものです。

たとえば水揚げから数時間以内に処理が終わった鰹と、半日以上経ってから加工された鰹とでは、できあがる節の身質がまるで違ってきます。前者は身がしっかりしていて脂の回りも良く、後者はどうしても身が緩みがちです。漁港の近くに鰹節工場が多いのは、この「早さ」が品質を左右するからなんですね。

ここで迷いやすいのは、「なまり節=鰹節の原料」という理解だけで止まってしまうこと。実際にはなまり節の時点でも十分に食べられる食品で、鰹節になる手前の中間生産物というより、ひとつの完成形でもあります。ここから先の工程に進むかどうかは、用途によって分かれる分岐点だと考えるとわかりやすいです。

燻して乾かす「焙乾」という作業

なまり節を本格的な鰹節にするためには、水分をとことん抜く必要があります。その主役が「焙乾(ばいかん)」と呼ばれる燻製の工程です。結論から言うと、鰹節のあの硬さと独特の香りは、この燻す作業によって生まれます。

仕組みはこうです。なまり節を木の棚に並べ、下から薪で火をたいて煙でいぶします。これを一日やって終わりではなく、冷ましては燻し、冷ましては燻しを何度も繰り返します。回数を重ねるごとに身の中の水分が少しずつ抜けていき、同時に煙の香り成分が染み込んでいきます。急激に乾かすと表面だけ固まって中に水分が残ってしまうので、時間をかけて少しずつ、というのがポイントです。

現場の様子を想像してみてください。薄暗い燻煙室に、何段にも積まれたなまり節がずらりと並び、薪の煙がゆっくりと立ちのぼっています。この作業は数週間にわたって続けられることもあり、職人さんは煙の色や節の重さの変化を見ながら、燻す時間や温度を細かく調整しています。

ここで「燻製だから保存食」と単純に考えてしまいがちですが、焙乾の目的は燻製香をつけることだけではありません。水分を抜いて微生物が繁殖しにくい状態を作ること自体が、保存性を高める一番の理由です。香りはいわば副産物で、結果的に鰹節らしい風味の土台になっている、という順番で理解すると仕組みがつかみやすいと思います。

カビをわざと生やす理由

焙乾を終えた節は、見た目も黒っぽく硬くなっていますが、これで終わりではありません。ここからさらにカビを生やす工程に進むものがあります。これが鰹節づくりのなかでもいちばん意外に思われる部分かもしれません。

カビをつける目的は、風味をまろやかにすることと、さらに水分を抜くことの二つです。焙乾だけでは節の内部にまだ水分がわずかに残っていて、脂っぽさや生臭さも残りがちです。そこで日光に当てて乾かす「日乾(ひぼし)」と、特定のカビを植え付けて発酵させる工程を何度も繰り返します。カビが節の内部の脂肪分を分解し、余分な水分を吸収してくれることで、角のとれた上品な香りに変わっていくんです。

この工程を一度だけ行ったものと、三回、四回と繰り返したものとでは、香りの深さがまったく違います。専門の蔵では、カビを生やしては天日で乾かし、表面のカビを丁寧に拭き取ってまた新しいカビをつける、という作業を何か月もかけて繰り返します。手間を惜しまないほど、削ったときの香りが豊かになっていく、という関係があります。

ただし、すべての鰹節がこのカビ付けを経ているわけではありません。カビをつけずに焙乾だけで仕上げたものも流通していて、これは後ほど説明する「荒節」にあたります。カビ付けの有無は好みや用途の問題であって、どちらが優れているというより、使い道が違うと捉えるほうが実情に近いです。

「荒節」と「本枯れ節」の違いはどこで生まれるか

鰹節には大きく分けて「荒節」と「本枯れ節」という二つの種類があります。結論を先に言うと、この違いは先ほどのカビ付け工程を経たかどうかで決まります。

荒節は、焙乾まで終えた段階の節です。表面は黒く硬い見た目をしていて、だしを取ると力強く濃いめの風味が出ます。一方の本枯れ節は、荒節の表面を削って整えたあとに、カビ付けと天日干しを何度も繰り返したものです。表面には白っぽいカビの粉が薄く残っていることもあり、断面はより乾いて締まった質感になります。本枯れ節のだしは、荒節に比べて香りが澄んでいて、雑味が少ないと言われます。

たとえば濃い味の煮物や、麺つゆのように他の調味料と合わせて使う料理には荒節のほうが向いていることが多いです。逆に、吸い物やお浸しのように、だしそのものの香りを前面に出したい料理には本枯れ節が選ばれる傾向があります。料理人の方が「一番だしには本枯れ、二番だしや煮物には荒節」と使い分けているのも、この性質の違いが理由です。

ここは好みが分かれるところで、どちらが絶対的に上とは言い切れません。家庭用として売られている削り節のパックの多くは荒節から作られたものですが、それでも十分においしいだしは取れます。本枯れ節は手間がかかる分、値段も高くなりがちですが、価格差がそのまま味の優劣に直結するわけではなく、用途に合っているかどうかの違いだと考えたほうが使いやすいと思います。

削り節になって食卓に届くまで

完成した鰹節は、そのままでは石のように硬く、料理に使うには削る必要があります。昔は家庭に鰹節削り器があって、使う直前に自分で薄く削るのが当たり前でした。今はパック入りの削り節を買う人がほとんどですが、この「削る」という工程にも、味を左右する理由があります。

鰹節は削った瞬間から酸化が始まり、香りがどんどん飛んでいきます。だから本来は、使う直前に削るのがいちばん香り高い状態なんです。工場で削ってパックされた削り節も、酸化を防ぐために脱酸素剤を入れたり窒素を充填したりして、できるだけ風味を保つ工夫がされています。それでも、削りたての香りには及ばないというのが正直なところです。

想像してみてください。削りたての鰹節を熱いお湯にさっとくぐらせた瞬間、ふわっと立ちのぼる香り。あれは削ってから時間が経っていないからこそ感じられるものです。逆に、開封してから長く置いたパックの削り節は、見た目は変わらなくても香りがかなり抜けてしまっています。

家庭で鰹節削り器を使う人は今では少数派かもしれません。それでも、だしの風味にこだわりたいときは、小さめのパックをこまめに使い切る、開封後は冷暗所で保存して早めに使う、といった工夫で香りの劣化をある程度抑えられます。鰹が水揚げされてから何か月もかけて作られた香りを、最後の瞬間にどれだけ活かせるか。削り節の扱い方ひとつで、だしの表情は意外と変わるものです。

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